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京都地方裁判所 平成9年(ワ)3442号 判決 2000年3月30日

奈良県<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

寺崎健作

東京都港区<以下省略>

被告

東京ゼネラル株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

榎本吉延

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一  請求

被告は、原告に対し、一億一一四六万六七一六円及び内五四九五万六七一六円に対する平成一〇年一月一七日(訴状送達の日の翌日)から、内一八〇五万円に対する平成二年三月三〇日(後記二2(三)(21)記載の最終の不法行為の日の翌日)から、内三八四六万円に対する平成一一年五月一三日(平成一一年五月一二日付請求の趣旨の変更申立書送達の日の翌日)から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  事案の概要

本件は、原告が被告に対し、被告が原告から委託証拠金及び充用有価証券の交付を受けながら、原告の委託に基づかない取引や取引所を通さない取引を行うなどの不法行為を行い、原告に合計一億一一四六万六七一六円相当の損害を被らせたと主張し、その賠償を請求した事案である。

1  争いのない事実

(一)  被告は、貴金属、粗糖、大豆等の商品先物取引市場における上場商品の売買取引の委託業務等を目的とする会社である。

(二)  原告は、被告京都支店の外務員であったB(以下「B」という。)の勧誘により、平成元年一月三一日、被告との間で、金、白金、粗糖及び大豆の取引市場における売買取引につき、原告を委託者、被告を受託者とする継続的委託取引契約を締結し、右取引を続けた。

(三)  原告は、被告に対し、右取引の委託証拠金として、少なくとも別紙証拠金一覧表番号1ないし3及び12の各金員を交付した(なお、証拠金の入出金の状況に関する原告の主張は別紙入出金状況一覧表「原告側主張」欄記載のとおりであり、同じく被告の主張は同表「被告側主張」欄記載のとおりである。)。

2  原告の主張

(一)  無断売買

被告が行った別紙取引等一覧表記載の取引のうち、同表「原告の主張」の「無断売買」欄に○印を付した取引は、無断売買である。なお、無断売買とは、原告の委託に基づかない取引のすべてを指し、被告が取引所を通すか通さないかは問わない。

また、原告が右のとおり無断売買と主張する根拠は、次のとおりである。

(1) 平成元年一月三一日の白金の取引は、被告の主張によると、原告が右同日に買建てをして同年一一月一五日に手仕舞いしたことになるが、原告が右のような長期にわたって建玉を続けることはないので、被告が原告の委託に基づかず、勝手に行ったものである。

(2) 原告が無断売買であると指摘する右(1)以外の取引については、大豆、粗糖の農水グループのすべての取引で委託証拠金が全くないのに建玉がされており、金、白金の通産グループでもほとんどの取引で委託証拠金が全くないか、不足しているのに建玉されているが、原告が売買に必要な委託証拠金を被告に預けていない以上、原告の委託に基づかないものである。

(3) 法定帳簿の偽造及びデータの虚偽記載がある。

(4) 追証状態であるにもかかわらず、建玉されており、追証拠金の入金の事実がない。

(二)  呑み行為

被告が行った別紙取引等一覧表記載の取引のうち、同表「原告の主張」の「呑み行為」欄に○印を付した取引は、呑み行為である。なお、呑み行為とは、被告が行った取引所を通さない取引のすべてを指し、原告の委託に基づくかどうかを問わない。

また、原告が右のとおり呑み行為と主張する根拠は、次のとおりである。

(1) 別紙取引等一覧表の番号1及び2の取引については、被告は、白金一枚当たりの平成元年一、六月当時の証拠金は九万円であると主張しているが、その当時、白金一枚九万円の限月は存在しないので、取引所を通さないで取引したことになり、呑み行為である。

(2) 被告は、取引所を通して別紙取引等一覧表記載の取引を行ったとして、証拠(乙二〇ないし二三、各枝番を含む。)を提出しているが、これには次のような問題がある。

① 被告提出の「先物取引日記帳及び売買注文伝票整理表」(乙二〇ないし二三)は法律上存在せず、かつ、法律の様式に従っていない。

② 証拠(乙二〇ないし二三、各枝番を含む。)に記載された売買高は、取引所の日報の売買高と大きく食い違っている。

③ 証拠(乙二〇ないし二三、各枝番を含む。)の中には、自己玉及び委託玉につき、日計及び月計が記載されていないものがある。

(3) 原告一人で被告の全取引をしたとする取引が多数存在する。

(4) 向かい玉の疑いが極めて高く、向かい玉は呑み行為である。

(5) 法定帳簿の偽造改ざんが行われている。

(6) 追証状態であるのに、入金の事実がない。

(7) 架空名義で取引を行った疑いがある。すなわち、領収書、振込依頼書、売買明細等でX名義がたびたび出て来るのは、被告が原告の委託証拠金を利用してX名義で取引を行ったからである。

(三)  その他の不法行為

(1) 断定的判断の提供、外務員登録証の不提示

① Bは、平成元年一月、原告に対し、「白金は今買えば絶対に上がるし、間違いなく儲かる。」などと述べて勧誘した。

② Bは、右勧誘の際、外務員登録証の提示をしなかった。

③ 被告京都支店長であったC(以下「C」という。)は、平成元年一月、原告に対し、白金は今が最安値でこれ以上は下がらないので必ず儲かると述べた。

④ 被告京都支店長であったD(以下「D」という。)は、平成二年三月、粗糖と大豆の取引をすれば、これまでの損を取り戻して儲けられると述べ、狭い市場で仕手化しやすい危険な関西の市場で取引を行わせた。

(2) 投機性の説明の欠如

Cは、原告に対し、元本割れがあること、非常に危険な取引であること、追証等の計算方法、投機性等について一切説明しなかった。

(3) 一口性の勧誘

Cは、原告に対し、取引単位は一口一〇枚であると述べ、最低単位が一〇枚であると思わせた。

(4) 法定帳簿閲覧禁止

法定帳簿として、注文伝票、先物取引計算書、委託者別先物取引元帳、委託証拠金出納帳、委託者別委託証拠金現在高帳、預り委託有価証券差入明細帳を各営業所毎に備え付けることになっているが、被告は、原告が要求しても、これらの帳簿を一切見せない。

① 被告京都支店長であったDは、原告に対し、元帳は統轄店の大阪支店にあると述べた。

② 被告大阪支店管理部のEは、原告に対し、裁判所の命令がなければ見せられないと述べた。

③ 被告本店管理部部長であったFは、原告に対し、プライバシーに関することなので見せられない、発注伝票は神戸の倉庫に保管していたが、阪神・淡路大震災のとき焼失したと述べた。

(5) 区分経理及び帳簿等の保存義務

被告は、先物取引日記帳、先物取引勘定元帳、先物取引建玉計算帳、先物取引受渡計算帳、実物取引勘定元帳につき、取引員のものと委託者のものを厳然と区分して記載し保存しなければならないのに、これを怠っている。

(6) 大口取引枚数の不告知

一限月に係わる一人の委託者の建玉が一つの上場商品の種類につき一〇〇枚を超えるときは、その委託者の指名等を文書で報告することになっているところ、原告は、平成二年に大豆一〇〇枚の取引をしたのに報告されていないし、同年二月二二日から同年五月一一日までの間、金と白金を合わせて二〇〇枚以上の取引をしたのに報告されていない。

(7) 委託契約準則(商品取引所法九六条一項)違反

原告は、平成二年三月ころ、大豆、粗糖の取引を始めようとしたが、被告から書類の交付を受けず、準則の説明も受けなかった。

(8) 報告書の送付欠如

原告は、取引を始めてから数回は商品取引所法九五条による通知を受けたが、その後は同通知を受けておらず、また、準則九一条一項では、証拠金の必要額、差引損益金の残額、未決済の委託建玉の内容、返還可能金を記載した通知を月一回以上送付しなければならないが、その送付も受けていない。

(9) 不必要な有価証券の受領

被告は、平成二年四月、原告に対し、実際には証拠金が必要でなかったにもかかわらず、証拠金が必要であると虚偽の申し入れを行い、コナミ株一〇〇〇株、富士通ゼネラル株五〇〇〇株を交付させた。

(10) 原告から委託された取引の不履行

被告は、取引所を通して別紙取引等一覧表記載の取引を行ったとして、証拠(乙二〇ないし二三、各枝番を含む。)を提出しているが、これには右(二)(2)①ないし③のような問題がある。このことは、原告が被告に委託した取引を被告が行わなかったことを窺わせる証左である。

(11) 受託契約違反

被告は、商品取引員として善良な管理者の注意をもって委託者である原告の指図を実行する義務を負うのであり、必要な通知と適切なアドバイスを行わなければならないにもかかわらず、次のとおりの違反を行った。

① 追証の請求のときだけ原告に連絡し、相場が急変したときには原告に連絡を取ったことがない。

② 原告が買玉を建てており、ストップ安で損失が出ているときにも、相場が下降しているのに、また戻ると言いながら損失を広げた。

③ 初心者である原告に数百枚という法外な建玉をさせた。

④ 被告は、管理者として善管注意義務があるにもかかわらず、虚偽の情報を流し、原告の損失を拡大させた。すなわち、平成二年二月一六日から同月二八日にかけて貴金属は下落基調であり、特に同月二三日は後場も下げ続けたのに上がると言って大量の金、白金を買わせた。また、大豆においても、同年五月九日シカゴ穀物が反落し円高であったのに、一〇〇枚もの大量の玉を建てさせた。

⑤ 常に満玉状態にしていた。これは少しでも相場が偏ったら追証の請求ができ、また入金がなければ被告のものとすることができるからである。

⑥ 被告における原告の担当者があいまいであり、最初の担当者Bとは全く取引をしていないし、次の担当者Gは見たことも聞いたこともない名前であり、担当者の変更の連絡も一切なく、実際に京都支店にいたのかも疑わしい。

(12) 受託契約準則違反

被告は、商品市場における取引の受託契約については受託契約準則によらなければならないにもかかわらず、原告に対し、大豆及び粗糖について取引所の準則規定の説明をしなかった。

(13) 受託契約の締結前の書面の交付違反

被告は、主務省令で定めるところにより、受託契約の締結前には書面を交付しなければならないにもかかわらず、原告に対し、大阪穀物取引所の大豆、大阪砂糖取引所の粗糖について書面を交付しなかった。すなわち、被告京都支店長であったDは、平成二年三月ころ、原告が大豆及び粗糖の取引を始めようとしたとき、原告に書面を交付しなかった。

(14) 約諾書違反

被告は、約諾書に署名した後でなければ、取引の委託を受けてはいけないにもかかわらず、大豆及び粗糖については約諾書がないのに取引を行った上、取引所の追加差入れ書の日付を空欄のままにしておくよう指示し、実際の取引は平成二年であったのに勝手に平成元年一二月の日付を書き込んだ。

(15) 残高照合通知書違反

被告は、原告に対し、毎月一回以上、証拠金の必要額、差引損益金の残高、未決済の委託建玉の内訳、返還可能額を通知しなければならないにもかかわらず、これらの通知をしなかった。すなわち、被告は、原告に対し、残高照合通知書を送っておらず、原告宅を訪問して同通知書に署名してもらった事実もない。また、原告は、営業店に行ったとき署名したことはあるが、様式が異なるものであった。

(16) 委託証拠金違反

被告は、取引の受託については、担保として遅くとも取引の翌営業日の正午までに委託証拠金を預託させ、証拠金が預託されたときは預り証を発行しなければならないにもかかわらず、平成二年の取引においてはすべて取引があった四日後の預託になっている上、同年二月二七日原告から委託証拠金一三九五万円を受け取ったとき、預り証ではなく領収書を発行した。

(17) 法定帳簿改ざん及び虚偽記載

原告は、被告に対し、担保用として有価証券を差し入れたが、その入出庫の日が事実と異なっており、また、証券会社の金庫に保管されている原告の有価証券がいつの間にか被告に入庫されたことになっている。

(18) 有価証券売却違反

被告は、有価証券を売却したと言いながら、他に担保として差し入れ、実際には売却しなかった。

(19) 過大な取引の禁止

被告は、投機的利益の追求を目的として過大な数量の取引をさせてはならないにもかかわらず、先物取引は全く初めての顧客に数百枚の過大な取引をさせた。

(20) 公序良俗に反する行為

被告は、Dが平成元年に裁判で判決を受けたにもかかわらず、半年も経たないうちにDを京都支店長として赴任させ、会社ぐるみで日常茶飯事のように全く同じ手口で違反行為を繰り返しており、すべてを金銭で解決できるとする被告の傲慢な態度は許されるべきではない。

(21) 無断で担保提供した行為

被告は、原告に無断で、平成一一年二月二三日富士通ゼネラル株一万株を代用価格九一〇万円で、同年三月二日矢作製作所株五〇〇〇株を代用価格三三五万円で、同月二九日コナミ工業株一〇〇〇株を代用価格五六〇万円で、いずれも取引証拠金として東京工業品取引所に預託した。

(22) 仕切り拒否

被告は、原告が平成二年三月貴金属の取引で二四〇〇万円以上の損失が出て資金の都合が付かないので取引を中止したいと申し入れたが、「今、止めたら一〇〇万円も戻らない。大豆、粗糖で取り戻せ。」と言って取引の中止を拒否した。

(四)  原告が被った損害

(1) 委託証拠金相当額の損害 五四九五万六七一六円

原告は、被告に対し、別紙証拠金一覧表記載のとおり委託証拠金五七九一万三八六三円を交付した。その一方で、原告は、別紙入出金状況一覧表記載のとおり被告から平成二年二月一日一二三万〇一八一円、同月七日一六一万三三〇三円、同年七月二三日一一万三六六三円の合計二九五万七一四七円を受け取ったので、委託証拠金相当額の損害は右金額となる。

(2) 有価証券の交付による損害 一一四六万円

① 原告は、コナミ工業株一〇〇〇株につき、一株八七九〇円で売却されたが、平成二年のコナミ工業株の高値は一株一万九二〇〇円であったから、その差額は一株一万〇四一〇円であり、一〇〇〇株で一〇四一万円の損害を被った。

② 原告は、富士通ゼネラル株五〇〇〇株につき、一株一二五〇円で売却されたが、平成二年の富士通ゼネラル株の高値は一四六〇万円であったから、その差額は一株二一〇円であり、五〇〇〇株で一〇五万円の損害を被った。

(3) 有価証券を無断で担保提供したことによる損害 一八〇五万円

原告は、無断で担保提供された有価証券の代用価格の合計一八〇五万円(右(三)(21)参照)に相当する損害を被った。

(4) 慰謝料 一六〇〇万円

(5) 弁護士費用 一一〇〇万円

3  争点

(一)  被告は、右2(一)ないし(三)のとおり原告が主張する無断売買及び呑み行為等の不法行為を行ったか。

(二)  原告は、右(一)の被告の不法行為により、右2(四)のとおり原告が主張する損害を被ったか。

三  争点に対する判断

1  事実関係

前記争いのない事実の外、証拠(乙二、三の1、2、四、八の1ないし14、九、一〇の1ないし4、一一の1ないし4、一二の1ないし3、一三の1ないし15、一四の1ないし9、一五の1ないし9、一六の1ないし5、二〇の1ないし14、二一の1ないし8、二二の1ないし11、二三の1ないし5、二四、二五、三九の1ないし4、四〇の1ないし22、四一、四二、四八、証人B、同C)及び弁論の全趣旨によると、大要、次の事実を認めることができる。なお、原告の供述及び陳述書(甲一六、五八)の記載のうち、右認定に反する部分は、その内容自体、独自の見解を展開するなど、首肯し難い箇所がある上、B及びCの各証言等の関係証拠に照らしても、信用性が低いといわざるを得ない。

(一)  Bは、平成元年一月ころ、被告京都支店に勤務し、京都市内の新規開拓等の営業活動を担当していたが、同月二八日午後三時ころ、不動産業を営むHを訪問し、その取締役営業部長であった原告と面談し、外務員登録証を示した上、パンフレットを示したり図を書いたりしながら、白金の商品先物取引の内容やその危険性、売買の注文の仕方等を説明し、白金は夏場前後に上昇する可能性が非常に高いと話し、期限の最も長い同年一二月限の買建てを勧め、その日の面談を終えて被告京都支店に戻り、原告について報告したところ、商品取引の経験はないが、株式の現物取引の経験が長く、経済知識は豊富で、年収一〇〇〇万円以上で自宅を所有しており、資金的にも問題がなかったため、引き続いて勧誘することになった。

(二)  Bは、同年一月三一日午前九時過ぎころ、原告に電話を掛け、白金の状況が良さそうなので、ぜひ取引をして欲しい旨話し、原告から白金一〇枚の買建て注文を指示され、白金一枚当たりの証拠金が一三万五〇〇〇円であるので、白金一〇枚で一三五万円になると説明し、注文伝票を作成した上、原告の都合に合わせて同日午前一一時三〇分ころ原告の勤務先に赴き、原告に契約関係書類を手渡して説明し、これに署名捺印してもらい、証拠金一三五万円を預かり、その旨を当時被告京都支店の支店長であったCに電話で報告し、右注文を商品市場に出すよう依頼し、これに基づいて二〇九六万円で売買が成立した旨、Cから電話で連絡を受け、これを原告に伝えた。

(三)  Cは、昭和六三年四月ころから平成元年九月ころまで被告京都支店の支店長であったが、右のとおり原告と取引を始めた後、原告が同年二月上旬ころから少なくとも月一、二回の割合で被告京都支店を訪れ、白金等の市況を尋ねていたことから、同年六月八日、原告と会って市況等について詳しく説明して勧誘し、原告から白金一〇枚の買建て注文を指示されたので、注文伝票を作成し、原告から同月一二日には証拠金一三五万円を預けると言われ、これを信用し、右指示に従って商品市場に注文を出し、原告から指示されたとおり売買を成立させた後、同月一二日、原告から右証拠金一三五万円の入金を受けた。

(四)  被告京都支店においては、顧客から売買の注文を指示されると、担当者が注文伝票を作成し、これを業務部に渡し、商品市場に注文を出してもらい、もし証拠金が不足しておれば、業務部から顧客に書類が発送されると共に、担当者からも顧客に電話で連絡し、追証拠金の入金がなければ決済するが、追証拠金が入金されたときは、担当者から業務部にこれを渡し、商品市場に注文を出して売買を成立させ、顧客に書面で売買が成立した旨報告する外、顧客の指示により、又は指示がなくても最低月一回は残高照合通知書を顧客に送付する取扱をしており、原告についても、右の取扱に則り、原告からの売買注文の指示に基づいて白金等の売買を行った。

(五)  すなわち、原告が無断売買又は呑み行為であると主張する取引のうち、別紙取引一覧表番号1及び2の取引については右(二)及び(三)のとおりであり、同番号3以下の取引については次のとおりであり、以上のいずれの取引についても、被告は、原告から売買の委託を受け、これに基づいて商品市場に取引を注文して売買を成立させた。

(1) 同表番号3につき、被告は、同年一一月一三日、原告から粗糖二〇枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これに必要な証拠金一〇〇万円については、同月一四日、原告から入金を受けた。

(2) 同表番号4につき、被告は、同年一一月一五日、原告から白金六〇枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、この時点で必要な証拠金五四〇万円については、右同日、同時に指示された白金二〇枚の売落ち注文による利益二三五万六二八五円と既に入金されていた証拠金二七〇万円があったので、原告から不足額三四万三七一五円の入金を受けた。

(3) 同表番号10及び同11につき、被告は、平成二年二月一六日、原告から白金四〇枚の買建て及び金五〇枚の買建ての注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これらに必要な証拠金九一五万円については、同月二〇日、原告から現金五万円の入金を受けると共に、富士通ゼネラル株一万株(九一〇万円)の入庫を受けた。

(4) 同番号12につき、被告は、同月二一日、原告から白金三五枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これに必要な証拠金三一五万円については、同月二三日、原告から矢作製鉄株五〇〇〇株(三一五万円)の入庫を受けた。

(5) 同番号13及び14につき、被告は、同月二二日、原告から白金四〇枚の買建て及び金五〇枚の買建ての注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これらに必要な証拠金九一五万円については、同月二六日、原告から入金を受けた。

(6) 同番号15につき、被告は、同月二三日、原告から金四〇枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これに必要な証拠金四四四万円については、同月二七日、原告から入金を受けた。

(7) 同番号16につき、被告は、同月二八日、原告から白金五〇枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これに必要な証拠金四一〇万円については、同年三月一二日、原告から入金を受けた。

(8) 同番号17につき、被告は、同年三月一五日、原告から粗糖四〇枚の売建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これに必要な証拠金二〇〇万円については、同月一九日、原告から入金を受けた。

(9) 同番号18につき、被告は、同月一六日、原告から粗糖五〇枚の売建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、これに必要な証拠金五〇〇万円については、同月二六日、原告からコナミ株一〇〇〇株(五六〇万円)の入庫を受けた。

(10) 同番号19及び20につき、被告は、同月二七日、原告から金五〇枚の売建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、この時点で必要な証拠金三七七四万円については、右同日、既に入金されていた通産グループの証拠金三五三九万円(充用有価証券を含む。)があった外、粗糖の建玉が手仕舞いされ、農水グループにおいて必要な証拠金がなくなったため、同年四月一〇日、原告の了解の下に、農水グループの証拠金(コナミ株一〇〇〇株((五六〇万円)))を通産グループの証拠金に振り替えたので、結局、証拠金に不足はなかった。

(11) 同番号23につき、被告は、同年五月九日、原告から大豆一〇〇枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させたが、これに必要な証拠金五〇〇万円については、原告の了解の下に、通産グループから農水グループに振り替えたので、証拠金に不足はなかった。

(12) 同番号26につき、被告は、同月一〇日、原告から粗糖六〇枚の売建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させたが、これに必要な証拠金三〇〇万円については、同月一一日、原告から三六〇万円の入金を受けた。

(13) 同番号31につき、被告は、同月三一日、原告から粗糖五〇枚の買建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させ、この時点で必要な証拠金七五〇万円については、右同日、既に入金されていた農水グループの証拠金八六〇万円があったため、証拠金に不足はなかった。

(14) 同番号33につき、被告は、同年六月一日、原告から大豆三〇枚の売建て注文を指示され、商品市場に取り次いで売買を成立させたが、これに必要な証拠金九〇〇万円については、農水グループに発生している帳尻金二〇九万一七六八円を農水グループの証拠金に振り替えたので、証拠金に不足はなかった。

2  判断

(一)  無断売買について

被告が原告の委託を受けないで売買を行った場合、これが原告に対する不法行為を構成するかどうかはともかく、右1で認定した事実をもとに判断すると、被告が右のような無断売買を行ったと認めることはできず、むしろ被告が原告のため行った売買は原告の委託に基づくものであったということができるのであり、結局、右二2(一)の無断売買に関する原告の主張は採用することができない。

なお、原告は、要するに、(1)平成元年一月三一日から同年一一月一五日までの長期にわたって建玉を続けることはあり得ない、(2)法定帳簿の偽造及びデータの虚偽記載があるので、被告が提出した証拠には疑義がある、(3)証拠金が不足している限り、原告が被告に売買注文を指示することはあり得ない旨主張するようであるが、右(1)の主張については、右1(一)及び(二)で認定したとおり、原告は、同年一月二八日、Bから期限の最も長い年月一二月限の白金一〇枚の買建てを勧められ、同月三一日、これに応じて白金一〇枚の買建て注文を指示したのであるから、右主張は採用できず、右(2)の主張については、被告が提出した証拠を精査しても、その信用性を否定すべき事情は窺われないので、右主張も採用できず、更に、右(3)の主張については、右1で認定した事実によると、被告は、原告から売買注文の指示を受けたとき、証拠金が不足していたが、原告が速やかに入金してくれるものと信用し、右指示に従って商品市場で売買を成立させ、後日原告から入金を受けていたのであるから、右主張も採用できないというべきである。

(二)  呑み行為について

右1で認定した事実をもとに判断すると、右二2(二)の呑み行為に関する原告の主張も採用することができない。

なお、原告は、右1(二)で認定した証拠金の額につき、被告は平成一〇年一一月五日付準備書面において白金一枚当たり九万円であると主張したが、平成元年一月当時、白金一枚当たり九万円の限月は存在しないので、このようにあり得ない金額を主張すること自体が取引所に取り次いでいないことを示すものである旨主張するようであるが、被告代理人は、BやCではなく被告本社の管理部の人から聞き、誤って右準備書面に九万円と記載したと説明していること、被告代理人は、右準備書面の作成後、原告の平成一〇年一一月一五日付準備書面において、平成元年一月中の同年一二月限の白金の証拠金は一枚当たり一三万五〇〇〇円であると指摘されたため、被告の平成一一年一月一四日付準備書面添付の別表において、証拠(乙一一の1)に基づき、白金一枚当たり一三万五〇〇〇円と訂正したことなどにかんがみると、被告代理人が誤って平成一〇年一一月五日付準備書面において白金一枚当たり九万円と記載したに過ぎないというべきであるから、原告の右主張を採用することはできない。これにつき、原告は、平成元年一月三一日、Bから白金の証拠金は一枚当たり九万円であると言われた旨供述しているが、右1で認定したとおり、原告は、右同日、Bに一三五万円を預けたこと、そうすると、原告は、九〇万円を預ければ足りるのに一三五万円を預けたことになるが、その理由に関する原告の説明は首肯し難いことなどを考慮すると、原告の右供述は信用し難いというべきである。

また、原告は、被告が商品市場を通して取引を行ったことの根拠として提出した証拠(乙二〇ないし二三、各枝番を含む。)の信用性に疑問を呈しているが、これらの証拠の信用性を否定すべき事情は窺われないし、その他、右二2(二)(3)ないし(7)の原告の各主張について検討しても、法定帳簿の偽造改ざんが行われていることを窺わせる事情はないこと、被告が提出した証拠にはX名義のものがあるが、これは単なる誤記と考えられること、原告から預かった証拠金が不足していたとしても、そのことが直ちに被告において原告の主張する呑み行為を行ったことを意味するものとはいえない(もちろん、被告が本来の意味での呑み行為を行った、すなわち、被告が原告から売買の委託を受けながら、商品市場で売買をしないで、被告自らがその相手方となって売買を成立させたということもできない)ことなどを指摘することができ、結局、原告の右各主張は、独自の見解を述べるものや根拠のないものであって、いずれも採用することができない。

(三)  その他の不法行為

まず、右二2(三)(1)ないし(3)の原告の各主張について検討するに、Bは、右1で認定したとおり、原告に対し、外務員登録証を示した上、白金の商品先物取引の内容やその危険性等について説明したこと、原告は、Bから説明を受けた結果、商品先物取引は証拠金による取引であり、損を生じることがあるし、資金の追加が必要なときもあることなどが分かったと供述していること、更に、原告の供述に照らし、原告は、商品先物取引の危険性の程度に対する自らの認識が甘かったことを棚に上げて、右危険性の程度に関するBの説明が不十分であったと不満を抱いているに過ぎないとみることができること、原告は、Dが虚偽の情報を提供した旨供述しているが、単に原告の思惑が外れたに過ぎないとみる余地があり、原告の右供述を直ちに信用することはできないこと、また、Bが右のとおり原告に商品先物取引の危険性等を説明した以上、Cが重ねて原告に右危険性等について説明する必要はなかったこと、更に、Bは、原告に対し、白金の場合、一枚が五〇〇グラムという売買単位があることなどを説明した上で、白金一〇枚の買建てを勧めたこと(乙四一、証人B)などを指摘することができ、これらの諸点を勘案すると、原告の右各主張はいずれも採用できないというべきである。

次に、原告の各主張のうち、右二2(三)(4)ないし(7)については、原告の各主張に係る事実を認めるに足りる証拠はなく、たとえ右事実が認められたとしても、直ちに被告に対する不法行為が成立するとはいえず、同(8)については、被告は、「売買報告書及び売買計算書」と題する書面を原告の勤務先に送付しており(乙九、三九の1ないし4、四〇の1ないし22)、これに反する原告の主張を採用することはできず、同(9)については、右1(五)で認定したとおり、被告は、平成二年二月から同年三月にかけて、原告から富士通ゼネラル株一万株、矢作製鉄株五〇〇〇株及びコナミ株一〇〇〇株の入庫を受けたが、これらはいずれも原告から指示された売買注文を行うための証拠金として必要があったものであるから、被告が原告から不必要な有価証券を受領したとはいえず、同(10)については、証拠上、被告が原告から委託された取引を行わなかったと認めることはできず、同(11)についても、原告の主張に係る事実を認めるに足りる的確な証拠はないというべきであり、同(12)については、被告が原告に大豆及び粗糖について取引所の準則規定の説明をしなかったかどうかは必ずしも明らかでなく、逆に原告が右説明を受けたことを窺わせる証拠(乙一、六、七)があるし、仮に被告が右説明をしなかったとしても、直ちに原告に対する不法行為が成立するということはできない。

更に、原告の各主張のうち、右二2(三)(13)及び(14)については、原告の各主張に係る事実を認めるに足りる的確な証拠はなく、たとえ右事実が認められたとしても、直ちに被告に対する不法行為が成立するとはいえないし、同(15)については、被告は、残高照合通知書を原告の勤務先に郵送又は持参しており(乙八の1ないし14、九、証人C)、これに反する原告の主張は採用することができず、同(16)については、右1で認定した事実に照らし、委託証拠金の関係で被告に不法行為が成立するとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、同(19)については、原告の取引が過当取引であるとまではいえないし、同(20)については、原告に対する具体的な不法行為を主張するものではなく、同(22)については、原告の供述に照らしても、原告は、被告に取引中止の申入れをしたが、被告から説得されて取引を続けることとしたものとみる余地があるので、原告に対する不法行為を構成するということはできず、最後に、同(17)、(18)及び(21)の有価証券をめぐる主張については、被告は、右1で認定したとおり、原告から富士通ゼネラル株一万株、矢作製鉄株五〇〇〇株及びコナミ株一〇〇〇株を充用有価証券として預かったこと、被告は、平成二年四月三日、富士通ゼネラル株五〇〇〇株を原告に返却し、同年五月一八日、原告の依頼により富士通ゼネラル株五〇〇〇株、矢作製鉄株五〇〇〇株及びコナミ株一〇〇〇株をいずれも売却し、同月二三日、右売却代金一八八〇万三八六三円を原告の口座に入金したこと(乙一一の2、三二ないし三四、四六、四七)、被告は、右各株式を預かっていた際、これらの株式を売買証拠金として東京工業品取引所に預託していたこと(乙二六ないし三一)などを指摘することができるが、同(17)及び(18)の原告の各主張に係る事実を認めるべき証拠はなく、また、同(21)の原告の主張に係る事実を前提としても、原告に対する不法行為が成立するということはできない。

(四)  結論

被告が原告の主張する右二2(一)ないし(三)の各不法行為を行ったと認めることはできないので、争点(二)について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないといわなければならない。

(裁判官 河田充規)

<以下省略>

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